君の隣
奈留は、そっと朱音の手を握った。

「それはね、“愛し続けてる証拠”なんだよ。

  ……ちゃんと愛して、ちゃんと看取ったから。

 それが、次に進めるって証明なの」

 奈留はまっすぐに続けた。

「お父さん、ずっと言ってたの。

 “お母さんの人生、止めるな”って。

 ……高沢先生の名前、あの婚姻届のコピーに書いたの、お父さんだよ。
 
わたしじゃない」

 朱音は、言葉の意味をゆっくりと噛みしめるように、目を伏せた。
 
視界に、朱音が着ているミントグリーンのブラウスが映る。

 奈留は、少しだけ声を落として続けた。

 「お父さん、気づいてたよ。
 
医大生の頃から、ずっと──

 お母さんの心から、高沢さんが消えないこと。

 私が、雅志を見る目と同じだって、言ってた」

 朱音は、息を呑んだ。

「それでも、お父さんはお母さんを選んだ。

 “それが朱音の人生なら、俺はその一部でいい”って。

 ……だから、もう赦してあげて。

 自分の気持ちも、全部」

「……!」

 
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