君の隣
病室のカーテン越しに、朝が差し込む。
理名の呼吸は静かで、機械のアラーム音も鳴っていない。
──心臓モニターが、リズムを刻んでいる。
それだけで、拓実は何度も目頭が熱くなった。
「おはよう、理名」
ベッドの傍に置いた丸椅子に腰を下ろし、拓実は囁いた。
ゆっくりとしたまばたき。
乾いた唇が、微かに動いた。
「……拓実……」
声にならないかすれた音。
でも、それは紛れもなく、彼女の意思だった。
何も失われていない──理名は、戻ってきたのだ。
「もう大丈夫。
ゆっくりでいい。
全部、ここから……また始めよう」
理名の瞳がわずかに揺れ、涙がこぼれた。
それは、安堵と、自責と、まだ消えきらない不安が混ざった、壊れそうな涙だった。
拓実は彼女の手をそっと包み込む。
「眠れなかったんだよな。
……それなのに、俺は気づいてやれなかった」
彼女はまぶたを閉じたまま、小さく首を振る。
点滴の針の刺さった腕、乾いた唇、そして透けるように白い顔。
それでも、命の火は消えていなかった。
微かな強さを帯びたまなざしが、拓実を見返す。
その瞳が、何よりも大切だった。
彼女の担当看護師が入室し、記録と処置を進める。
理名の様子に気を配りながら、声をかける。
「今日からおかゆにしてみましょう。
少しずつ、ね」
「……食べられるかな」
「ひと口で大丈夫。
焦らなくていいから」
言葉少なにうなずく理名を見て、拓実の胸がまた熱くなる。
食べること。
笑うこと。
生きて、誰かと時間を共有すること。
それは当たり前のようでいて、脆く、でも確かに温かい。
──失いかけた命を、もう二度と手放さない。
拓実のなかに、誓いのような想いが芽生えていた。
理名の呼吸は静かで、機械のアラーム音も鳴っていない。
──心臓モニターが、リズムを刻んでいる。
それだけで、拓実は何度も目頭が熱くなった。
「おはよう、理名」
ベッドの傍に置いた丸椅子に腰を下ろし、拓実は囁いた。
ゆっくりとしたまばたき。
乾いた唇が、微かに動いた。
「……拓実……」
声にならないかすれた音。
でも、それは紛れもなく、彼女の意思だった。
何も失われていない──理名は、戻ってきたのだ。
「もう大丈夫。
ゆっくりでいい。
全部、ここから……また始めよう」
理名の瞳がわずかに揺れ、涙がこぼれた。
それは、安堵と、自責と、まだ消えきらない不安が混ざった、壊れそうな涙だった。
拓実は彼女の手をそっと包み込む。
「眠れなかったんだよな。
……それなのに、俺は気づいてやれなかった」
彼女はまぶたを閉じたまま、小さく首を振る。
点滴の針の刺さった腕、乾いた唇、そして透けるように白い顔。
それでも、命の火は消えていなかった。
微かな強さを帯びたまなざしが、拓実を見返す。
その瞳が、何よりも大切だった。
彼女の担当看護師が入室し、記録と処置を進める。
理名の様子に気を配りながら、声をかける。
「今日からおかゆにしてみましょう。
少しずつ、ね」
「……食べられるかな」
「ひと口で大丈夫。
焦らなくていいから」
言葉少なにうなずく理名を見て、拓実の胸がまた熱くなる。
食べること。
笑うこと。
生きて、誰かと時間を共有すること。
それは当たり前のようでいて、脆く、でも確かに温かい。
──失いかけた命を、もう二度と手放さない。
拓実のなかに、誓いのような想いが芽生えていた。