君の隣
それから、1週間後。

 薄いラベンダーのオープンショルダーワンピースに、ベージュのカーディガンを羽織った朱音。

彼女は、ステージの端にいた。

「──三波 朱音(みなみ あかね)先生、よろしくお願いします」

緊張で手が冷たい。

 照明が眩しくて、足元が少し心もとない。

朱音は、壇上に立って、スライドを切り替えた。

 患者の症例と治療経過を丁寧に語った。

 婦人科腫瘍における術後フォローの研究。

 何度も夜を徹して練習し、ようやく辿り着いた発表だった。

質問が飛んでくる。

少し詰まりながらも、明瞭に答えを返していった。

 やがて、会場の一角で、目が合った。

──高沢だった。

最前列でも中央でもない、あえて人の陰に隠れるように座っていたのに。

 見つけてしまった。

 ……見られていた。

けれど、驚きよりも先に込み上げてきたのは、不思議な安心感だった。

会場を出たあとの、短い拍手。

 その中に、誰よりも強く手を叩いていたのが彼だったことも──朱音は知っていた。

 
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