君の隣

覚悟の夜

「星哉を忘れることは、できない。

 でも……それでも。

 私はあなたに、抱きしめてほしかったの」

 沈黙。

 そして──音もなく、彼の腕が伸びて、朱音の頬に触れた。

「……朱音。
 今夜はもう、止めないから」

「……望んでるよ、全部。

 今夜は、わたしも逃げないから。

   ……お願い、輝」

彼の名前を、はじめて下の名前で呼んだ朱音。

 それが、すべての合図だった。

 指先が、朱音の髪をそっと梳く。
額に唇が触れ、頬へ、顎へと滑るように伝っていく。

 高沢の指先が、慎重にワンピースのファスナーを探る。
 
まるでその行為自体を味わうように、ゆっくりと――滑らせる。

 ワンピースが音もなく床に落ちた。

 「こんなふうに、誰かに愛されたかった──」

ブラに包まれたままの柔らかさに、指先が丁寧に触れる。

「あなたじゃなきゃ、いやだったのに……
 ずっと、我慢してたの」

彼の手が、背中にまわってブラホックを外す。

 解かれた布地が、するりと滑り落ちると──その奥にあった素肌が、露になる。

「……きれいだよ、朱音」

その囁きに、朱音の目から涙がこぼれた。

「言葉にしてくれるの、ずるい……
 でも、嬉しい……」

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