君の隣
その指を重ねたまま、ふたりは朝の静寂の中で、もう一度唇を重ねた。

 熱を残した肌を感じながら、確かに始まっていく新しい日々──
式はまだ。

指輪も今、ようやく。

星哉の想いを受け継ぎながらも、ふたりだけの未来に向けて、歩んでいく。

 学会の翌日。

遅刻ギリギリの時間に大学病院に駆け込んだふたり。

「珍しいですね。
おふたりそろって、遅刻ギリギリなんて」

看護師数名に、不思議がられてしまった。

 その日のお昼に、【高沢 朱音】と記された、苗字変更届けが提出された。

結婚している医師は、患者の混乱を招かないよう、旧姓を使用することが多い。

麻未や理名も、そうしている。

 朱音だけは、違った。

きっかけは、朝、夫からかけられた一言だった。

「もう、今更だもんな。

苗字は気にしなくてもいいんじゃないかな。

【朱音先生】で。

 きみが、ちゃんと診察中も俺の苗字を名乗ってくれるのが、一番嬉しい」

 苗字変更届けにより、院内広報の一面は賑わった。

【産婦人科医朱音先生、祝結婚!
 
お相手は、脳神経外科医のエース、高沢 輝先生!】

 紙面には、先日の学会帰りの写真や、院内でオペ終わりに、コーヒーを渡す高沢の写真があった。

 極めつけは、監視カメラの死角になる場所で、当直中に朱音の頭を撫でる、高沢の姿。

「いつ撮ったのよ!
 こんなの……」

「いいんじゃない?
 
よく撮れてる。
 
ウチの病院の写真部、腕いいんだよね。

 ――永久保存版にしたいくらい」

「やめてってば」

 ふたりの新たな日常は、いつまでも続いていく。
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