君の隣
拓実は、カーテン越しに差し込む午後の光を背に、病室の扉をそっと閉めた。

 理名が眠る静けさのなかで、自分の鼓動だけが、やけにうるさく響いていた。

彼女は助かった。

 けれど、その安堵の裏で、言いようのない焦燥と罪悪感が、彼の胸をひたひたと満たしていく。

「……何も、知らなかった」

理名のカルテに並んでいた、無機質な医療用語たち。

ジエノゲスト、ホルモン療法、通院記録——

 “手術適応”の記述の下に、小さく記されていた『不妊治療』の四文字。

 それ脳に焼き付いて離れなかった。

拓実は、ふっと短く息を吐いた。

 心の奥がじわりと痛んだ。

 これは医師としての反省ではない。

 恋人として、あまりに致命的だった自分への悔しさだった。

「……何を見ていたんだ、俺は……」

彼女の“強がり”を“強さ”と誤解し、彼女の“沈黙”を“信頼”だと都合よく思い込んでいた。

 大丈夫だと思いたかったのは、自分の方だったのかもしれない。

ただ寄り添うだけでは、救えない痛みがある。

 それを今さら思い知っても、遅いのかもしれなかった。

でも、何かを知りたかった。

 
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