君の隣
「星哉っていう人だった。

 彼が仕事を失った日、私は“迷惑をかけたくない”って思ったわ。

 処方された睡眠薬を、全部飲んだ。

 ……誰にも言えなかった。

 “平気なふり”をして、笑って、何もなかったように過ごした」

朱音の声の静けさの奥に、深い痛みが滲んでいた。

「そのとき、私が本当に欲しかったのは、“優しい言葉”じゃなかった。

 “弱さを見せても、離れない覚悟のある人”だったのよ」

 拓実は、言葉を失ったまま、朱音を見つめていた。

 「だから、理名ちゃんの気持ちが、痛いほどわかる。
 
彼女が黙っていたのは、あなたを信じていなかったからじゃない。

 信じたかったからこそ、言えなかったのよ」

 朱音は、拓実の目を見て、静かに微笑んだ。

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