君の隣
電話口に向かい、仕事中限定の冷静な口調で耳元の機械に話しかけた。

 個室の騒ぎ声を掻き消すため、普段の倍の声量を意識して。

「お疲れ様、藤田医師。

 何かあったの?」

研修医の声から、急性アルコール中毒で搬送された患者が二名いると告げられた。

「とにかくできる処置をして。

 すぐ向かうから。

 いくら研修医でも、私と同じ大学出身ならそのくらいの知識はあるはずよ。

 基本は必ず叩き込まれているんだから」

理名と同じ大学出身の研修医は、サークルの強制参加やコンパを通じて、アルコール中毒の処置を身に付ける。

 自分の酒耐性を知ることも義務づけられているのだと、先輩が話していたのを思い出す。

「じゃあ、頼んだわね」

< 3 / 216 >

この作品をシェア

pagetop