君の隣
「……だから、怖いの。

 いつか、子どもができたとして。

 両親が急に交通事故で亡くなったから、顔なんてもう、おぼえてない。

 遠縁の祖母には、世話という世話は何もされなかったの。

 炊飯器の中の冷えたごはんと、いつ作られたものか、わからないおかず。

 それだけが、日々の食事だった。

  ……そんなわたしが、自分の子どもに愛を与える側になるって、ちゃんとできるのかなって」

慎也は、そっと彼女の手を握り直す。

「……育てよう、一緒に。

 麻未がひとりで背負うんじゃない。

 俺がいる。

 何度でも言うよ──

 全部、受け止めるから。

 君が、母親になることに不安を抱くのは当然だと思う。
でもね。

君ならきっと、愛してあげられると思う」

麻未の目に、すっと涙がにじむ。

「……ほんとに?」

「うん。

君は誰よりも、人を思いやれる人だから」

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