君の隣
──あの夜のことを、麻未は今もときどき、思い出す。

「なんでいつも、君は黙って抱え込むんだよ……!
 そんなに、俺が頼れないのかよ!」

初めての喧嘩。

 慎也の怒声に、傷ついた心が揺れた。

 深夜、誰もいない部屋で、カッターを手首に当てて、そっと切り始めたそのとき──ドアが開いた。

「麻未!」

戻ってきた慎也が寸前で手を掴み、カッターが床に鋭く音を立てて落ちた。

 慎也は、すぐに彼女の異変に気づいた。

「おい……

 熱があるじゃないか。

 無理するなって、言っただろ」

そのまま病院へ連れて行かれ、処置を受けた夜。

 点滴が繋がれた左腕には、真新しい包帯が巻かれていた。
 

< 49 / 216 >

この作品をシェア

pagetop