君の隣
麻未が震える身体で言葉を探す前に、慎也がそっと抱きしめてくれたのだった。

「あのときは、ごめんね。
 まだ、自分の気持ちを、きちんと言葉にするの、苦手だったから」

「俺も、余裕がなかった。
 ごめん」

「もし、家族が増えても、
 こうして、少しでもふたりきりで話せる時間があれば。

 心は繋がったままでいられる気がする」

「時間なら、いくらでも作るよ。
 奥さんのためならね」

──そして、朝の空がゆっくりとふたりを包み込む。

それは、過去の痛みを越えて、“家族を持つ未来”に手を伸ばした麻未の、確かな第一歩だった。
 
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