君の隣

未来への準備

「もう、3ヶ月も働き詰めじゃないか。

 いいかげん、君たちは休暇を取るように」

 医局長に言われて、ふたりで、3日の休暇をとった。

 せっかくだから、ゆっくり温泉でも行こうと提案した慎也。

「慎也と、ゆっくりふたりで過ごしたい。

 部屋に露天風呂ついてるとこで、ずっとくっついていたい。
ダメ?」

「世界一可愛い恋人がそう言うなら、そうしようか」
 
 旅先の宿は、長野の山あいに佇む静かな温泉宿だった。

 夜の帳が降り、窓の外には夏の蛍がちらちらと舞っている。

部屋に灯る柔らかな明かりの中──

浴衣の麻未が、ふうっと息をついてソファに沈んだ。

「……こんな贅沢、久しぶり」

「久しぶりっていうか、初めてじゃない?」

慎也は湯上がりの髪を軽くタオルで拭きながら笑った。

「そっか。

そうだよね……」

麻未はそっと視線を向ける。

湯気のように心がとろけていく空気。

“この人と一緒にいる”というだけで、
< 51 / 216 >

この作品をシェア

pagetop