君の隣
振り返ることなく病院の入り口へと足早に向かった。

入り口のドアをくぐり、階段を駆け上がる。

 医局に寄って白衣だけを羽織る。

 ICUへ急いだ。

エレベーターから研修医の藤田が息を切らせながら出てきた。

「岩崎医師!

 すみません……二名とも、もう……」

藤田の、その絶望に満ちた表情を見て、理名は続きを聞かずとも理解した。

患者は二名とも亡くなっていたのだ。

一人はショックによる心停止。

 こうしたケースは稀にあることだ。

 もう一人は窒息死だった。

「あなたのせいじゃない。

 気にしなくていい」

理名は帰宅することにした。

 後輩の藤野医師が帰るよう促してくれたのだった。
先輩の同窓会、抜けさせてしまいましたね、と済まなそうな顔をした藤野医師。

その肩を、そっと叩いて、病院を出た。

マンションのオートロックをくぐったあと、彼氏の拓実と共用の合鍵で、家のドアを開ける。

「……ただいま」

返事はなく、自分の声だけが室内に響いた。

 いつものことだと、理名は諦めていた。

 ——“独りぼっちにしない”って、あの言葉は嘘だったのか。
あの言葉。

 医師になりたての冬に、告げられた言葉を思い出した。


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