君の隣

あの日の記憶

その日、理名は、先輩・脳神経外科医の高沢輝(たかざわあきら)が執刀する手術の助手を務めていた。

 手術は成功し、思わず小さく息を吐く。

助手とはいえ、心臓は締めつけられるように重かった。
 プレッシャーから解放されて、小さく息をついた。

 これを、自分が執刀できる日は、いったいいつ来るのだろう。

医局へ戻ろうと背を向けたその時だった――

「急患が運ばれてきました。
岩崎 隆文(いわさき たかふみ)、心筋梗塞ステージ4です!」

その名前が、理名の全身を凍らせた。

 父の名前だった。

走る足音の奥に、母の病室の前に立ち尽くす、中学生の頃の自分がぼんやりと浮かぶ。

 あの時は、見ているしかなかった。

 無力で、何もできなかった。

だが今は違う。

免許もある。

 知識も、経験もある。

──もう、あのときとは違う。

 この手で、救う。

 父を。

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