君の隣
体調の波
それから数日。
麻未は、つわりの波に悩まされていた。
この日は10週目のチェックのため、朱音の診察室を訪れていた。
「じゃあ、今日は10週目のチェックをするわね。
つわり、どう?」
朱音のやわらかな声が響く産婦人科の診察室。
麻未は白衣の上からカーディガンを羽織り、午後の合間をぬってひと息ついていた。
「んー……まだ朝だけちょっと。
吐くってほどじゃないけど、なんとなく気持ち悪いなって感じが続いてて」
朱音が小さく頷きながらカルテにメモを取る。
「赤ちゃん、順調そうよ。
……ほら、見て」
モニターに映る小さな命。
数週前よりも、少し手足が分かるようになっていて、心臓のリズムも力強い。
「……すごい、もう、こんなに……」
感動よりも先に、不思議な気持ちが込み上げる。
朱音は画面を見ながら、ふっと微笑んだ。
「命が育つって、ほんとに奇跡の積み重ねよね。
……でも、その分だけ、母になる人の心も揺れるの。
岡崎先生なら、わかってると思うけど」
「……うん」
麻未は、主治医の朱音にしか言えないような本音を、そっとこぼした。
「ときどき怖くなるの。
ちゃんと育てられるかな、とか……
……この命に、ふさわしい人間でいられるのかなって」
「ふさわしいかどうかなんて、誰にも分からないのよ。
でも、ちゃんと“思える”ってことが、すでに立派なスタートだと思う」
朱音の言葉は、どこか過去の自分自身に向けているようでもあった。
「赤ちゃんのことも、自分のことも、ちゃんと見てあげて。
無理しないで。
……母になるって、強くなることじゃない。
“弱くてもいい”って思えることだから」
麻未の胸に、静かにしみていく言葉だった。
麻未は、つわりの波に悩まされていた。
この日は10週目のチェックのため、朱音の診察室を訪れていた。
「じゃあ、今日は10週目のチェックをするわね。
つわり、どう?」
朱音のやわらかな声が響く産婦人科の診察室。
麻未は白衣の上からカーディガンを羽織り、午後の合間をぬってひと息ついていた。
「んー……まだ朝だけちょっと。
吐くってほどじゃないけど、なんとなく気持ち悪いなって感じが続いてて」
朱音が小さく頷きながらカルテにメモを取る。
「赤ちゃん、順調そうよ。
……ほら、見て」
モニターに映る小さな命。
数週前よりも、少し手足が分かるようになっていて、心臓のリズムも力強い。
「……すごい、もう、こんなに……」
感動よりも先に、不思議な気持ちが込み上げる。
朱音は画面を見ながら、ふっと微笑んだ。
「命が育つって、ほんとに奇跡の積み重ねよね。
……でも、その分だけ、母になる人の心も揺れるの。
岡崎先生なら、わかってると思うけど」
「……うん」
麻未は、主治医の朱音にしか言えないような本音を、そっとこぼした。
「ときどき怖くなるの。
ちゃんと育てられるかな、とか……
……この命に、ふさわしい人間でいられるのかなって」
「ふさわしいかどうかなんて、誰にも分からないのよ。
でも、ちゃんと“思える”ってことが、すでに立派なスタートだと思う」
朱音の言葉は、どこか過去の自分自身に向けているようでもあった。
「赤ちゃんのことも、自分のことも、ちゃんと見てあげて。
無理しないで。
……母になるって、強くなることじゃない。
“弱くてもいい”って思えることだから」
麻未の胸に、静かにしみていく言葉だった。