君の隣
心の底に沈んでいた不安は、完全には消えない。


けれど、愛されているという確信が、麻未をそっと包んでいた。

それは、どんな鎮痛剤よりも、確かに心を温めてくれた。

その日は、朝からいつもよりお腹が重たく感じていた。

「ねえ、慎也……

 なんか、今日はお腹が張る感じが強いかも」

「張りだけ?

 痛みは?」

「ううん……痛くはないんだけど……

 いつもと、違う……ような」

慎也はカレンダーに目をやった。

 予定日まで、あと9日。

(まだかもしれない。

 でも、もういつ始まってもおかしくない時期だ)

念のため麻未のバッグを再確認し、携帯の充電もフルにした。

そのあと午後には、いつも通り昼寝をしていた麻未だったが──
夕方、小さな呻き声で慎也が気づく。

「……ん……っ、あ……」

「麻未?」

「……なんか……下腹部……ぎゅーってするの。

 ……少し、痛い……かも」

「どのくらいの間隔?」

時計を見る。午後4時12分。

 5分後、また麻未が眉をしかめた。

「……また、来た……」

「わかった。

 病院行こう」

「でも……まだ早い、かもしれないし……」

「行って、違ったら帰ってくればいい。

 何かあってからじゃ、遅い」

慎也の声は冷静で、でもどこか切実だった。

 彼がさっと荷物を持ち、玄関に手をかけた瞬間──

「……あっ……!!」

ばしゃっ、と音を立てる破水の感覚。

麻未は目を見開いたまま、足元を見下ろす。

「し、慎也……!

破水……した……!」

「……大丈夫!

すぐ行くよ!」

 車を走らせる間、麻未は後部座席に寝かされていた。
表情はこわばり、時おり唇を噛む。

「……う、く……っ」

「呼吸、浅くなってる。

 麻未、覚えてる?

吸って、吐いて……

 ゆっくり、だよ」

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