君の隣
分娩室へと運ばれていくベッドの上で、麻未が弱々しく手を伸ばす。

「……慎也……」

「ここに、いるよ。

 ずっと」

麻未の手を握りしめたあと、医療スタッフの制止もあり、慎也は分娩室の扉の外へ。

──その扉が、閉まる。

途端に押し寄せる、焦りと無力感。

廊下の椅子に腰を下ろし、額を手で覆った。

(こんなにも、待つ時間が長いなんて……)

医師として仕事をしてきたけれど、まさか自分が“立ち会えない側”になるとは。

(麻未が……命がけで、新しい命を迎えようとしてる)

──怖い。

 何もできない。

だけど。

慎也はそっと、ポケットに手を伸ばした。

そこには、小さな折り鶴。

 麻未が健診のたびに、不安を紛らわせるように折っていたものだ。
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