君の隣
「……大丈夫。

 きっと、きみは強いから」

深呼吸をして、目を閉じる。

もうすぐ、新しい命が、ふたりのもとにやってくる。

そしてきっと、それは「始まり」なのだ。

ただ待つしかできない夜を──
彼は、祈りながら、静かに迎えていた。


分娩室の中、時間の感覚は曖昧だった。

 時計の針が進むたびに、陣痛の波が押し寄せ、麻未は意識を必死に保とうとしていた。

「もう少し、頭が見えてますよ。

 吸って、吐いて──もうひといき!」

朱音の声が、遠く近く、何度も響く。

「はぁっ、はぁっ……う、あぁぁ……っ!!」

(怖くないって思いたい。

 でも怖い。

 苦しい。


 でも──会いたい。

 あの子に、会いたい……!)

「岡崎先生、次で決めましょう!」

最後のいきみ。

声にならない叫びが喉を突き抜け、
身体の芯からしぼるような力がこめられた、そのとき──

「……オギャア……ッ! オギャアァァ!!」

空気を切り裂くような産声が、分娩室に響き渡る。

3月とはいえ、まだ寒さの残る夜。

 麻未が、ひとりの母となった瞬間だった。

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