恋がしたい。ただ恋がしたい。

紫と私は、まぁ、年は取ったけど、そう姿形は変わってないな。


裕介くんは今は長めの髪で、落ち着いた色合いのアッシュブラウンに染めているけど、短く切り揃えられた髪は真っ黒で、少しだけ毛先を立たせてる所が少年ぽくって可愛らしい。


「崎山先輩」って、昔はそう呼ばれてたんだっけ?


昔は、三人で一緒にいた事も殆ど無かったような気がする。


じゃあ、「香織ちゃん」って呼んでくれたのは?


仲良くなったのは…いつからだった?



***


目覚めてすぐに目が開けられなかったのは、さっきまで見ていた夢があまりにも懐かしかったからだ。


懐かしくて、温かな、過去の記憶。


もう少しだけ、このふわふわとした余韻に浸っていたかったけど、肌寒さには勝てずに、まどろみかけた意識を引き戻してゆっくりと、目を開けた。


真夏なのに肌寒さを感じたのは、素肌にかけられたキルトケットが腰までずれて、肩が露になっていたのと、眠りに落ちるまで側で感じていた温もりが消えていたからだった。


「ゆうすけ…くん?」



気だるさに包まれた重い身体を起こして、薄暗い部屋を見回す。


裕介くんの姿はなく、ベッドの下には自分の服だけが綺麗に畳まれて置いてある。


下着まできちんと畳まれていて、恥ずかしさに頬がカアッと熱を持った。
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