恋がしたい。ただ恋がしたい。

***


「ーおり、かおりー、寝てるの?」

誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。


寝てるに決まってるじゃない。こんなに目の前が真っ暗なんだもの。


ゆさゆさと身体を揺すぶられる感触がしても、されるがまま目を開けず、指一本動かさずに黙っていた。


「香織…………死んでないよね?」



突然耳元でそんな声がして、思わず噴き出してしまった。


「ふっ。」



「あー!やっぱり起きてた!コラ!タヌキ寝入り!!」


ゆっくりと目を開けて、目の前で頬をふくらましている親友に謝る。


「ごめんごめん。…生きてるけど、起きたのは今だよ?紫。」


そう言いながら身体を起こす。目眩も頭痛もすっかり消えていた。

それどころか夢も見ずに眠ったせいか、頭も冴えて、気分は妙にすっきりとしていた。


「ああ良かった。だいぶ回復したみたいね。顔色も問題無いし。青いの通り越して紙みたいな顔色だったって聞いたから焦ったわ。」


紫は安堵したように、はぁーと息を吐いた。


「何か食べた?水分は?」


清涼飲料水のペットボトルの蓋を開け、手渡してくれたのをありがとうと言って受け取ってから、はたと気がついた。



「あれ?紫、どうして此処にいるの?」

< 168 / 270 >

この作品をシェア

pagetop