恋がしたい。ただ恋がしたい。

「うん。戦うのは性に合わないし、誰かを傷つけて手に入れたしあわせだったら、私はそれをしあわせだって思えなくてずっと苦しむと思う。そういう気持ちを裕介くんは分かってくれるから。だから、裕介くんを好きになって良かったって思うよ。」


「ふーん。…じゃあ、裕介は純くん以上の存在になれたの?」


紫のいつもの決め台詞。恋の終わりに繰り返し聞いていたこの言葉に、私は笑顔でうなずいた。


「紫。私ね、今純くんがしあわせそうで嬉しいの。過去を無かった事にはできないけど、今、しあわせな道を歩んでる、それを側で見る事ができただけでも私の初恋は報われたんだなって、そう思えるようになったの。」 


純くんに失恋してから、ずっと初恋を忘れられなくて辛かった。


実らなかった初恋も、奈緒子ちゃんを傷つけてしまった後悔も、純くんと向き合えなくて、向き合って欲しくて苦しんだ心もようやく全て過去にすることができた。


だから、みんなの前でもこうして純くんの事を笑顔で話せるようになったんだ。


ついでに、カウンターの向こうで立っているこの男にだって笑顔で話してやろうじゃないの。


「小山くん。私ね、小山くんにも感謝してるの。純くんのアパートの前で話した時があったでしょ?正直、言われた事には納得できなかったし、ほんとトラウマになっちゃうくらいズタズタにされて小山くんの事死ぬほど苦手になっちゃったんだけど…」



「あの場で私が突っ走るのを止めてくれなかったら、もっと私、奈緒子ちゃんに酷い事をしてたかもしれないし、私も後悔なんて気持ちじゃ済まなかったかもしれないから。」
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