恋がしたい。ただ恋がしたい。
「言わせてもらえなかっただけなのにね。だって『好き』って言われちゃったら純くんは応えられないんだから。奈緒子ちゃんからの逃げ場にされたのに、向き合ってもらえなくて、なのに突き放してももらえなくて。苦しかったよね……それなのに、こうなったのは自分がちゃんと付き合ってた時に素直に気持ちを伝えなかったからだって……本当は伝えたかったって一人で泣いてた香織ちゃんがいじらしくて。」
「そんなに悲しい泣き方をしないで欲しい。もう一人で泣かないで欲しい。僕にだけは、そうやって本音をさらけ出して欲しいって思ったんだよね。……その瞬間に、僕は香織ちゃんの事が好きなんだろうなって気がついたんだ。」
「そう思ったら、ずっとモヤモヤしていた胸の中がすっきりした。あぁ、僕は香織ちゃんに恋してるんだ。これは恋なんだって納得したんだよね。これが、『10年と3年』って事。分かってくれた?」
うん、と言うと裕介くんはいきなりくるり、と回れ右をした。前を歩いていた人が急に振り向いたものだから、後ろを歩いていたスーツ姿のおじさんがびっくりした様子で一瞬立ち止まった。
「ちょっ……ちょっと、裕介くん!」
おじさんにすみません、と会釈をしながら来た道を戻る裕介くんに慌てて着いて行く。
「ねぇ、帰るの?」
少し遠回りをしようって言ったばっかりなのに。
ちょっとだけ口を尖らせながら言うと、「もちろん、帰るよ。」と満面の笑みで返された。