恋がしたい。ただ恋がしたい。

「いらっしゃいませ……あっ、こんにちは!」

店舗のショーケースの後ろから笑顔で出迎えてくれたのは、楓ちゃんだった。


「こんにちは。……志帆さんは、今日はお休み?」


オーナーの志帆さんがお休みなんて珍しい。


それに、最近志帆さんの姿を見ていないような気がする。最後に会ったのは、ここで亨と別れ話をした時だから、2ヶ月近く会ってない事になる。


気にはなったけど、楓ちゃんが「はい、今日はちょっと……」と言葉を濁したので、何となくこれ以上深く聞いたらいけないような気がして、ショーケースの方に目を移した。


「今日は奈緒の所に行くんだよな?」


ケーキを眺めていると、ふいに頭の上から声が降ってきた。

この店で、私の頭上から声を掛けられるヤツなんて一人しかいない。


「そうだよ。」


正体が分かっているので、顔を上げずに返事をしてやった。


この店のパティシエさんにはあまりにも色々な情報が筒抜けなので、最近は『何で知ってるの?!』と驚く事も全く無くなってしまった。
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