恋がしたい。ただ恋がしたい。

……だって、昔裕介くんが『Milkyway』で働いていた時があって、パン作りは一通りできちゃう事なんて、知らなかったし聞いた事も無かった。


……それに、裕介くんが『Felitita』ではウェイターだけじゃなくてマネージャーとして働いているって事も、新しいお店にも本当はマネージャーじゃなくて、ほぼオーナーとして声を掛けられたのだって……私は全然何も知らなかった。


『だから今は時間の融通がきくから、朝の仕込みも手伝えるよ。』なんてニコニコしながら小山には言ってたって事も。


たぶん、本当は『Felitita』でラストまで働いてから新しい店の準備をして……殆ど眠らずに『Milkyway』に行ってたはずなのに。


「……志田ちゃん、パン欲しい?こんなに沢山は食べきれないから半分あげるよ。」


やったー!と無邪気に喜ぶ志田ちゃんの横で、ずっしりと重いケーキの箱とパンの袋に押し潰されるように、私の心はすっかり沈んでしまっていた。


***

羽浦駅前から車で30分程。新興住宅地のニュータウンに程近いマンションの一室。緊張しながらチャイムを鳴らした私を出迎えたのは、純くんでも奈緒子ちゃんでもなく、意外な人物だった。


「二人とも、遅かったっすね。」

「……木村くん。何でここにいるの?」
< 247 / 270 >

この作品をシェア

pagetop