恋がしたい。ただ恋がしたい。

「志田ちゃん、どうしたの?」

戻って来た裕介くんに問いかけた。

「香織ちゃん、奏一くんにパン貰ったでしょ?車の中に置きっぱなしだったって気がついて、追いかけて来てくれたみたい。」


あー、そう言えば荷物になるからって置かせてもらってたんだった。涼しいから一、二時間くらいは平気かなって思って……。

「良かったら全部どうぞって言っちゃったんだけど、いいよね?」。


『いいよ』

……って、普段だったらすんなり言えたはずなのに。


「……裕介くんの作ったパン、私も食べてみたかった。」


裕介くんが作ったパンだけど、私に何も聞かずに全部あげてしまったって聞いたら……心に溜まっていた不満がつい口をついて出てしまった。


口を尖らせて話す私の顔を見て、裕介くんは少しだけ眉を下げて困った顔になった。


「あー、奏一くんに聞いちゃった?……パンだったら、いつでも作ってあげるよ?今はちょっと忙しくて無理だけど、落ち着いたら……」

「そういう意味じゃない!『いつでも作れる』とか、そういう事を言って欲しいんじゃないの!」


「……どうして言ってくれなかったの?『Milkyway』を手伝ってた事も……新しいお店にマネージャーじゃなくって、オーナーとして行くって事も……」


裕介くんは優しいから、私の事を考えたら言えない事が増えていくのは仕方ないのかもしれない。


「私、何にも知らなかった。付き合ってるのに。一緒に住んでるのに。今は……誰よりも裕介くんの側にいるのに。」


……でも、いつも側にいるのに、それじゃあまりにも寂しいよ。
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