恋がしたい。ただ恋がしたい。
気がつけば隣に座っている裕介くんに向かって、ぐいっと身を乗り出しながら話しかけてしまっていた。
「落ちつきなって。急にどうした?香織ちゃん。」
そんな私の勢いに押されることも無く、王子は微笑みながら言葉を返す。その表情には余裕が感じられて、ちょっとだけ腹立たしい気持ちになってしまった。
今まで二人で…いや紫と三人でいたって恋話をするのはいっつも私だけだ。
裕介くんとは、紫と同じく出会ってからもう10年以上経つけれど、今まではこんな気持ちになったことなんて無かった。
彼の恋愛事情に興味を持ったのは初めてかもしれない。
視線を合わすこと、数秒。…裕介くんはいきなりくすくすと笑い出した。
「その質問にどの程度答えたら、香織ちゃんは満足するんだろうね?」
…ねぇ?と首を傾げながら、裕介くんは覗き見るように私ともう一度視線を合わせた。
さらさらとしたアッシュブラウンの髪の間から覗くその瞳は艶っぽく、アルコールが入っていて少しだけ赤みがさしている眼の縁なんかも、無駄にセクシーに見えてしまう。
まるで恋人同士のように見つめあっていたことに気がついて距離を取ろうとするよりも早く、カウンターの下で裕介くんの手が私の手を捕らえていた。
「僕も男だからね。お客様でも可愛いなって思う子はつい見ちゃうけどさ。」
「でも、それだけだよ。付き合うとか、それ以前にお客様とはどうこうする気は無いよ。」