恋がしたい。ただ恋がしたい。
するすると指先から指の間、そして手首まで撫で回されて、くすぐったさとは違うゾクゾクとする感触が背中を駆け上がった。
「僕がどうこうしたいのは、一人だけ。」
そのまま指を絡めるように手を繋がれ、握った手にキュッと力が入る。
「ちょ…っ、ちょっと!裕介くんっ!」
酔ってるの!?
私達は友達で、しかも裕介くんは紫の…親友の弟で、間違ってもこんな風に恋人繋ぎをして見つめ合うような関係じゃない。
「ねぇ、どうしたの?酔っちゃった?…何か、いつもの裕介くんじゃないみたい。」
「いつもの僕って何?教えてよ。『いつもの僕』なら、これくらいで酔わないって分かるでしょ?…香織ちゃんにはいつも僕はどういう風に見えてるのかな。」
絡めた指をゆっくりと動かしながら裕介くんが問いかける。その表情はニコニコとしていて『いつもの』裕介くんに見えるけど…
何だか責められているように感じるのは気のせいじゃないと思う。
「ねぇ、香織ちゃん。いつまでも忘れられないほど強い存在と、いつも側にいるのに空気みたいに心に残らない存在…どっちの立場が辛いんだろうね?」
「…えっ?」
「そろそろ、解放してあげたら?」
どういう意味ーー?
問い返す間もなく、「さ、そろそろ帰ろうか。」と繋いだ手を離して裕介くんはさっさとレジに向かって歩いて行ってしまった。
「…そろそろ僕も『空気』以上の存在にならなくちゃね。」
裕介くんが小声で呟いた言葉は、居酒屋の騒がしい空気に溶けるように消えていって、私の耳に届くことは無かった。