恋がしたい。ただ恋がしたい。
…なるほど。ほんとうにこの人は、私の事をよく分かっている。
「終わったよ。…今から泊まれる所なんてあるかなぁ。」
元カレに会いたくないから、部屋を出なきゃいけないなんて…自分の部屋なのに、どうしてこんな目にあわないといけないんだろう。
これから泊まる所を探して、運良く見つかったとしても鍵を取り替えるまでホテル住まいで…鍵を交換するのも、ホテルに泊まるのも結構な出費だし、鍵を替え終わっても…できれば、もうこの部屋には住みたくない。
深い深いため息を吐いて、玄関へと向かう。キャリーバッグのずしりとした重さが、そのまま自分の心の憂鬱さを現しているように思えた。
「泊まるとこなんて探す必要無いよ。」
ひょい、と裕介くんが私の手からキャリーバッグを奪いながら言った。
「えっ?…だっ…んっ…」
『だって、』と言いかけた唇に、裕介くんの長い指が触れて、それ以上言葉を続けることができなくなった。
「うちに、おいでよ。」
形の良い唇の両端がキュッと上がる。
…キッ…キラキラキラースマイルだ…。
無意識なのか…
狙い通りなのか…。
王子の必殺技が弱っていた私の心にクリーンヒットした。
そのまま、なすすべも無くずるずると引き摺られるように、今来た道を裕介くんのマンションに向かって引き返して行った。