恋がしたい。ただ恋がしたい。

その嫌味のこもった言い方に、一応形だけ向けていた笑顔が引きつっていく。


たぶん、コイツにこんなに嫌悪感を感じているのは、この空間では私だけしかいないだろう。


ちら、ちら、と回りの席の女の子達の視線が私と紫の座っている席に集まっているのを感じる。


でも、それは私達が注目されている訳ではなくて、このカフェ『MilkyWay(ミルキーウェイ)』のパティシエであるこの男が、所謂イケメンというやつだからなのだ。


さらさらと流れる少し色素の抜けた茶色い髪。切れ長の瞳。鼻筋は通っていて、薄い唇のバランスの良い整った顔が、スラリとした長身のこれまたバランスの取れた身体に乗っかっている。


嫌味なくらいにどこもかしこも整っているこの男の名前は、小山奏一(こやまそういち)と言う。


私と、紫と、小山とは同級生で、高校一年の時に同じクラスだった。


そして、こいつが純くんの奥さんの奈緒子(なおこ)ちゃんが長いこと片想いをしていた相手でもある。


「ここは小山くんのお店だし、別にゆっくり話してもいいんじゃない?」


紫へと手の平を向けて、ごゆっくりどうぞ、と促した。小山と紫とは小学校からの付き合いだし、積る話もあるだろうし。


…私は話す事は何にも無いけどね!



私は、この男が大の苦手だ。


苦手だったら『MilkyWay』に来なきゃいいのに、って言われそうだけど、この男の作るケーキ(だけ)は美味しい。


…悔しい。けど美味しい。苦手なのに通ってしまうくらい美味しいのだ。
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