恋がしたい。ただ恋がしたい。
「なんかさ、結婚って人生にとって重要なターニングポイントだって今まで思ってたんだけど、紫見てたらそんなに構えるもんじゃなかったんだなー、って思った。」
この一ヶ月。享に振られてからずっと『結婚』について考えていた。
享と付き合って二年近く経って…もう二十代も後半だし、口にはしていなかったけど、当たり前のように結婚を意識していた。
押し付けたつもりは無かったけど、そういう雰囲気は醸し出していたかもしれないし、知らないうちにじりじりとプレッシャーをかけていたのかもしれない。
よく考えたら、亨の事が好きだから一生一緒にいたい、とかそういう気持ちでは無かったし、そもそもそういう純粋な気持ちで、結婚というものを考えた事は今まで一度も無かったような気がする。
紫はいつも自然体だ。
それは、決してやりたい放題だという訳じゃなくて、自然に今の自分にとって一番ベストな選択をしているという意味だ。
彼女は決してタイミングを外さない。
回りが呆れるほど慎重なくせに、慎重過ぎていつもチャンスを逃してばかりいる私は、紫のその潔さにいつも憧れている。
チャンスの神様は前髪だけしか無いから、すれ違ってからチャンスに気がついて、『しまった!』と思って振り向いた時にはもう掴む事が出来ない、って聞いたことがあるけど…
紫ならもしチャンスを逃してしまったとしても、すぐに振り返ってその禿げ上がった後ろ頭ごと鷲掴みにするくらいの事はやってのけるだろう。
そうやってチャンスも、恋も、しあわせも自分自身の手で掴み取って来たのだろうから。