恋がしたい。ただ恋がしたい。

「…ほんと、香織って奏一くんのこと苦手にしてるよね。」


紫が苦笑いを浮かべながら、シフォンケーキを口に入れた。


「なのにケーキを食べてる時だけはしあわせそうな顔しちゃってさ。見てて凄い面白いんだけど。」



そりゃそうよ。作った人の性格は最悪だけど、ケーキは嫌みを言わないし、腹黒くも無いからね。



「仕方ないじゃない。『MilkyWay』のケーキは大好きなんだもん。もちろん紫と一緒じゃなかったらわざわざここで食べないでテイクアウトしてたよ。…ってか、紫、小山くんに入籍の報告してなかったの?」


『お前、教えろよなー。』と言った小山(心の中では『くん』なんて付けてやんない)は、本当に驚いた顔をしていた。小山のそんな顔って、なかなかお目にかかれないと思う。


あの男と渡り合えるのは、私の知っている限りでは紫しかいない。


「うん。両親に挨拶とか、職場の研修とか、引っ越しとかでバタバタしてたからね。あっ、そうそう。奈緒子ちゃんにはちゃんと言ってたよ?奈緒子ちゃんに言っといたら回り回って奏一くんまで届くかと思って。」


さらっと言い放った紫に今度は私が『えー?!』と驚いた。


そんな伝言ゲームみたいな結婚報告ってあり?



しかも伝わってないし…。



…ほんっと、適当なんだから。
< 63 / 270 >

この作品をシェア

pagetop