恋がしたい。ただ恋がしたい。
「裕介くん。」
「何?」
「…ありがとう。」
鏡を見なくても分かる。
たぶん、もう私は泣きそうな顔はしていないと思う。
照れて真っ赤になってしまっているかもしれないけど。
恥ずかしさはあるけれど、同時に不思議な心地よさも感じている。
私の『ありがとう』の言葉に、今度は裕介くんは『うん』と返事はしなかった。
代わりに肩に顔を埋めながら、回した手に力を入れてギュッと強く抱きしめてきた。
まるで恋人同士のような甘い抱擁に、心臓がキュッと切なく軋む。
…どうしてこんな風にギュッとするの?
私の視線の先にあるのは裕介くんの腕と指先だけだ。
包みこむように後ろから抱きしめられているから、裕介くんの表情は見えない。だから彼の気持ちが分からない。
それがひどくもどかしく感じた。
さっき振り向いたら『襲っちゃうよ』って言われた事は、頭の片隅に引っ掛かってはいたけれど、
それでも振り返りたいと思ってしまった。
彼の艶やかな薄い唇を思い返す。
あの優しく微笑む唇に触れたら、一体どんな感触がするんだろう…。
…裕介くんの顔が見たい。
衝動のまま身を捩ろうとした瞬間、裕介くんの腕の奥から仄かに甘ったるい匂いが香ってきた。