恋がしたい。ただ恋がしたい。

「大村先生…ちょっとよろしいでしょうか?」


帰りの会が終わり、職員室に戻って来た純くんを待ち構えて声をかけた。


もう奈緒子ちゃんは産休に入っているはずだ。昼だろうが、何だろうが、放課後になると奥さんの元へさっさと帰ってしまうこの男を、とにかく捕まえないと。


志田ちゃんの方は、先輩権限でいつでも呼び出せるしね。



「…いや、今日は…早く帰らないと、あのさ…」



『奈子がさ~』なんて続きそうな話を切って、一気に捲し立てた。


いい年して、奥さんを『奈子』なんて愛称で呼んでるヤツの話なんて聞くもんか。


「そうそう。さっきちょっと用事があって紫にLINEしたんだけど、今日奈緒子ちゃんと一緒にランチ食べに行くんだってねー。…大村くんが、奈緒子ちゃん以外の事で早く帰らなきゃいけない用事って何かある?」



「…。」


何も思い付かなかったのだろう。黙りこんでしまった純くんに、にっこりと笑いかけながら他の人には聞こえないように小声で



「つべこべ言わずに、ちょっと顔を貸してって言ってるの。分かった?」


と囁いた。



紫が奈緒子ちゃんと会う約束をしていたのは偶然だったけど、おかげでじっくり話を聞くことができるから、紫様々だわ。
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