好きも嫌いも冷静に

「…あ。え、え?えーっ!ごめんなさい、ま、間違いました。友人と」

かなり驚いている様子からして本当に間違ったらしい。

「…そうでしたか。大丈夫ですか?足元も少し、…振らついてるみたいですが」

「だ、だ、大丈夫です!これは、えっと…あ」

話に出た友人なのだろう、見つけたようだ。駆け寄って来た。

「あっ、もう、ともみ〜、居た居た、こっちよ。何して…って、えー…ちょっと……知り合い?の、人?なの?こちらの…」

ちょっとー、何?どういう事?
ともみがイケメンさんと、…ぇえ?!どういう事に成ってるの?

「お友達、見つけてくれたみたいで良かったですね」

「え?あ、は、はい。すみませんでした。
いきなり変な事して、ごめんなさいでした」

友人と俺を交互に見ては焦っているようだ。
別に、特に大したことではない。単なる人間違いだ。…まあ、冷静なら身長差といい、スカートではないことといい、判断出来ていただろうけど。

「いや、いや、大丈夫だよ。僕は何とも。
あ、タクシー来ました。良かったら先にどうぞ」

俺の番だ。タクシー待ちの人間が多いせいか、大抵余るほど並んでいるタクシーも珍しく客待ちをしていなかった。一台、二台とやって来た。
後部のドアが開いた。

「そ、そんな…、駄目です。
ご迷惑をおかけした上に、そんな事までは」

「大丈夫です。僕は素面ですから。貴女の方こそ、具合が悪くならないうちに少しでも早く帰った方がいい。さあ、どうぞ、遠慮なく。
どこまでですか?」

「あ、○○までですけど」

「解りました。運転手さん、○○まで、お願いします。さあ、もう行き先を伝えましたから、どうぞ、乗ってください」

「あ、え、でも…」

「僕は後のに乗りますから。さあ。貴女も一緒で良いですよね?」

手を引かれ軽く背中に腕を回された。
キャーッ。さりげないエスコート、…キャー!

「あ、は、はい」

「じゃあ、乗って。それでは。お願いします」

男の人が軽く手をあげた。ドアが閉まった。
短いやり取り。あっという間のことだった。
タクシーは静かに発進した。

「あ、ちょっと、ともみ。どういう事?何がどうなってるのよ、説明して?あのイケメンはなに?」

聞きながら触れられた余韻にちゃっかり浸っていた。
慌てて首を回して後ろを見た。あの人がタクシーに乗っているところが見えた。

「私にも解らない。酔ってたから…。間違えたんだけどね…」

どこに帰るんだろう。一緒に乗らないなんて、紳士的な人…。
確かにほろ酔いで…抱き着いちゃった。間違ってイケメンさんに。…ラッキー!また会えないかな、素面の時に…。

「も゙う。私が先に並んでタクシー待ってたら良かった。コンビニ寄るから先に行っててなんて言わなきゃ良かったー。はぁ…」

「そんなこと言っても……はぁ…」

少し赤い顔はアルコールのせいなのか…。
それともイケメンさんに遭遇したせいなのかな…。もう一度後ろを見た。…あ、タクシーは来ていなかった。どこかで折れたんだ。
二人して熱い溜め息が洩れ続いた。
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