好きも嫌いも冷静に
「そうですよね、献立を考えるだけでも毎日は大変」

「自分はそれは大丈夫ですけど、調味料の配合を旨くなるように考えたりするのってまさに化学ですよ。火加減もですね」

「あー、そう言われたらそうですね。じゃあ、料理が苦手だとすると、根本は理数系が苦手ってことになるのかも…」

「そこまではどうなんですかね。反感を買うといけないので迂闊には頷けませんけどね」

「そうですね、フフフ」

私と高城さんが料理の話で盛り上がっていた頃、伊織さんは店員さんと話をしていたようだった。

「先日はメールを有難うございました。気を配って頂いて」

「いいえ」

「あの方が大切な方なのですね」

「はい、そうです」

「はぁ、お二人供とてもお似合いで素敵です。溜め息が出ます」

「なんと言って返したら良いのか…」

首を振った。

「いいんです。素敵な人は素敵なんです。またいらして頂いて有難うございます。それでは、これで」

「はい」

周りに遠慮気味に会話をして、彼女は仕事に戻って行った。

澪さんの方に目をやった。
誰かと話し込んでいるようだった。控えめに、それでも随分…屈託なく楽しそうに笑っているのが解った。
誰だろう…あの男。精悍な感じで長身の男。…ん。どこかで会ったような気がする…。
まあ、後で聞けば解る事だ。

「へえ、では今日はアクアパッツァとパエリアを?」

「はい。アクアパッツァは割と簡単に出来ますよね。味は魚介類が勝手にいい味を出してくれるし」

「そうです、そうです。あ、なんだかその言い方だと化学的ではないですね」

「ハハ、パエリアもフライパンで出来ちゃったりしますし」

「どちらも美味しそうですね。…上手く作れたら」

「あ〜、その言い方、ちょっとトゲがないですか?こう見えても失敗はしないんですよ?」

「証拠は?証拠を見せてください。目撃者は?立証してくれる人は居るんですか?どうなんですか?」

「ハハハ、意外に詰め寄りますね。頭の回転が早い。俺に向かって尋問ですか?」

「アハハ。はい。物的証拠は、あるんですか?」

「ハハハ。そう来ましたか…。では、…これでは?」

徐に携帯を取り出し、保存してある写真を見せられた。
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