好きも嫌いも冷静に
……ふう、仕方ない。

「こんばんは」

「いらっしゃいませ。こんな時間に、…珍しいですね?」

思った通り。珍しいですねの言葉は俺と一緒に入った冴子にも当てはまる言葉だ。表情はそう言ってる。

「…まあ、ちょっとあって。すみません、奥の方の席、いいですか?」

「どうぞ、お好きな席に」

こんな時間だ。客はほぼ居なかった。余計、訳ありだって目立つよな。

「有難うございます。
あ、マスター。コーヒーと…、あと…、カフェラテ、お願いします」

「了解で~す」

はぁ…、まさか冴子とこの店に入る事になるとは…。明日から朝食で寄れるかな…。寄るのは俺次第だけど。


「どうぞ、…ごゆっくり…」

コーヒーとカフェラテは直ぐに運ばれてきた。

「有難うございます。
冴子。取り敢えず、飲んで温まってからだ。勝手に頼んで悪かったな」

冴子はいつもカフェラテを飲んでいた。

「ううん。有難う、伊織。はぁ…、美味し、い…」

両手を温めるようにカップを包んでいた。

「……それで、用とは?」

一息、文字通りだ。長居するつもりもない。
冴子にしてみたらもう少し待ってくれてもってところだろうが。

「あ、うん、………あのね…。私、これでも私なりによく考えたのよ、あれから。伊織が結婚を考えていて、…それで、相手は私じゃダメな事。
でもね、それでも伊織とは別れたくないの。
だって…、ご飯行こうって、呼んだら来てくれるし。伊織とは‥、体の相性だって…良いんだもん…」

何言ってる…。…。俺はそこまで……一度もイイとは思わなかったよ。仕方なく、お座なりにだ…。解んなかったのかよ…。都合よく呼んで、当たり前のように…関係を迫ってたくせに…。…。

「だから、どうしても別れたくなくて。別れたくないって、言いたくて…。どうしても会いたかった…。会って話したかったの。だから、待ってた。
住所を聞き出して…。強引にシたら、また戻れるんじゃないかって」

「おい、いい加減にしろ…」

あり得ない。

「待って。…解ってる。……さっき迄は、…伊織が帰って来る迄は、絶対別れないって…、そう思ってた。……でもね、…そんな私に、…散々自分勝手な事した私に、伊織は気遣ってくれた。寒かっただろうって。
どうして?伊織はいつもそう。いつもどこか優しいの…。私の我が儘に付き合ってくれて…。
私は、そんな伊織を都合よく利用してばかりだって、…解ってたよ?自分でも」
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