好きも嫌いも冷静に
「じゃあ伊織さん、ごゆっくり」
「あら、すみれちゃん、伊織と、もういいの?」
「はい。伊織さんはマスターのモノですから」
「あら、やだ。よく解ってる~。気が利くじゃな〜い」
すみれちゃんが居なくなったのを確認して俺は英雄に言った。
「…英雄、もういいから。さっきからそれ…わざとだろ?」
「ん?……。まあな…。はぁ、やっぱり伊織はすげぇなぁ。侮れない…。
見ての通りだ、…おちゃらけてないと俺の方がツライんだ」
「…そんなの、それこそ、すみれちゃんだって気が付いてると思うけど?あの子は賢い子だから」
「ああ、そうだろうよ。それでもいいんだ。
若い子の真っ直ぐな気持ちは割り切ってもどこか切ないんだよ。当たり前だけど大人じゃない。言ってること解ってくれるか?
……普通に接しようとする態度が何だか痛々しくてな」
「流石。相変わらず、よく解ってるな」
「否、これは俺の気持ちの方なんだ。
人に好意を持たれるって、本当は…、良いもんじゃないか、普通。
俺みたいな‥、ガチャガチャした男を良いって言ってくれるのも貴重だしな?
すみれちゃんはいい子なんだよな‥。
…だからな、思いに応えられないのが、…何だか辛いんだ」
「それは、言っても仕方ない。……仕方ないじゃないか。お前はそんな…器用なことが出来る奴じゃない」
「そうなんだけどな…」
「みんな、見る目あるよな、…人気者の英雄は辛いな?」
「はぁあ?伊織が、…何言ってる‥」
「澪さんも言ってたよ?英雄の事。初めて会った時、大きくて温かい人だって。‥繊細で優しい人だって。見抜いてた。名前の通りの人だって」
「ふ〜ん」
英雄は頬をポリポリ掻いた。
「満更でもないだろ?」
「…妬いてんだろ、俺に」
「…ああ、妬くよ。英雄じゃなくても、誰にだって…。
俺以外の男に、好感を持った事言われると、…妬くよ」