好きも嫌いも冷静に
あら、優男に見えて、何だか筋のある男じゃないの。
「伊織さんて言うのね?ごめんなさい、聞こえちゃったから」
「…。構いませんよ。因みに伊織は下の名前です。名字ではありません」
「そうなんですか。
あの〜、僕もひとつ。いきなりですが、誤解を解いておきたい事が出来たんです。
さっきから変だと思ってるでしょ?この言葉遣い。男のくせに。
実は、うちは僕の上に三姉妹が居るんですが。
その姉達に囲まれて育ったせいというか…、その影響で、時々オネエみたいな話し方に…。
言っておきますが、どストレートですから。いたってノーマルですからね!安心してください、僕は男です。変な警戒されても嫌ですしね。
このゴリゴリも、逆に誤解を与えるんですけどね…」
「…はあ、特に。大丈夫ですよ?誤解はしませんから」
「良かったぁ!あの、差し障りが無ければ、お名前、フルネーム、お伺いしてもいいかしら?あ、ごめんなさい、またこんなしゃべり方で」
「…はあ、別に大丈夫です。みまさか いおり、と言います」
「みまさかさん」
「はい、美作伊織です」
「みまさかいおりさん。おいくつですか?」
「29です」
「あらやだぁ、僕達タメです。奇遇ですね」
「…なんと言ったらいいんですかね。…そうなんですね」
世の中、当たり前だけど色んな29が居るんだな。
「いや〜ん、伊織ちゃん、て、呼んでいいかしら?」
「…。いや、いや。さすがにちゃんは、ちょっと、…まずくないですかね…。それこそ誤解されますよ?いっそのこと呼び捨てでいいですよ?伊織で。
あの、それでは、俺…、そろそろ…、遅いんで帰ります」
疲れちゃってるんで。
「あら、帰っちゃうのね。また明日の朝、待ってるわ〜、伊織」
「…おやすみなさい」
「おやすみなさ〜い」
朝のいつもの雰囲気とは偉い違いだ。……本当にノーマルなんだろうな…。
ブルッ。うっ、寒!!
美作伊織29歳、独身ねぇ…。
明日すみれちゃんに情報提供してやるか…。
さぞや狂喜乱舞するに違いない。