好きも嫌いも冷静に
電話か…。…冴子。あいつ…。あれから連絡も無いし…、諦めてくれたのだろうか。
…フッ、嫌だと散々ごねておいて、実はもうとっくに好条件の新しい男が見つかってて、俺どころじゃなくなってるのかもな…。はぁ。
なら、いい。連絡なんて無くてもいい。そうだったらいいと願ってしまう…。

会社帰りの俺を追いかけてきて、いきなり声を掛けてきたのは冴子の方からだった。地味な容姿ではなかった。どちらかと言えば目立つ、そんな雰囲気の女性だった。後腐れのない関係を求めてきたのだと思った。彼女がいた訳ではなかったし、それなりにつき合った。求められて、…男女の関係だってあった。そういうのだけ、あればいいんだと思っていた。
何だろうな…。
つき合っていたとは違うな。
中身が何も無い…。
自分から好きになった訳じゃなかったからか、好きだったのか、感情さえ解らなくなった。
冴子にとって俺は都合が良かったんだ…。
あいつは端から本気じゃなかった。ただ、男が欲しかっただけなんだ。
連れて歩ける男が。
いつ来るか解らない呼び出しに応えて食事につき合う。買い物に行きたいと言えばつき合う。
誕生日には一人で居たくないと言われれば食事に行く。
いつでも都合に合わせて我が儘を聞いてくれる男。
連れて歩くのに見てくれのいい男。
面倒だと思いながらもそれにつき合っていたのは確かだった。
冴子のような女が別れたくないなんて言うのは、次のやつが見つかる迄、一人になるのが嫌だってだけだ…。
男が切れるのが嫌なだけなんだ。
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