好きも嫌いも冷静に


「ああ、出汁の良い匂いがしたんだ」

「へぇ、繊細だな。料理人みたいな反応だ」

「そんな大袈裟な事じゃないだろう。出汁って何とも言い難い、旨いもの出来そう、みたいな匂いじゃん」

「ハハハ、まあそうだな。煮物とか汁物とかな。そうか、店の客だったのか」

「うん。英雄は…、環さんの事、いつからなんだ?」

「あ、うん…。実は姉貴の同級生なんだ。だから、そうだな…姉貴が高校生の時、うちに来たのが初めてだから…、それからだと、もう、かなり長いな…。重症だな」

重症ね…。そりゃ大変だ。

「中学生くらいの頃からって事か…」

「そうだな。まあ、その頃は時々うちに来る綺麗な人だなくらいだよ、きっと。それでドキドキして。…だけど、俺も高校生、大学生と大人になるにつれ、綺麗になっていく環さんを、…見てると切なくなってきたんだよな…」

見てただけか。

「打ち明けた事は無いのか?」

「無い」

英雄は首を振った。がたいの良い英雄が急に小さく見えた…。純粋な気持ちで好きなんだな…。

「何だろうなあ。…遠いんだ。手の届かない人っていうか…、憧れが強すぎるのかも知れない。
大人だなと思ったら、全然追いつかないんだ…。思春期の衝撃がずっと残ってるんだろうなあ、きっと。……俺じゃなくてもいいんだ、環さんが幸せなら…、そう思ってる。
だから、今、幸せなんだろうかって、いつまでも環さんが気になってしまう…」

「幸せを願うのもいいけど、英雄さぁ、その気持ちに決着をつけた方が良くないか?いい歳なんだし。言うだけでも言って、はっきりさせた方がいいと思うけどな。
誰の為じゃなく、この先の…自分の為に」
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