好きも嫌いも冷静に

・ともみと申します

(ともみ)

あ、あの人は。
間違いない、タクシー譲ってくれた人。

「あの〜、失礼ですが。私の事、解りますか?」

いきなりの不意打ち的な質問に、俺はその、下から見上げている女性の顔をジッと見詰めてしまった。
見る見る顔が赤く成っているようだったが。
んー、誰だっけ、確かに見覚えあるんだけど…。下手なことは言えない。
首を傾げて更にジッと見詰めてみた。
んー……ん?…あ。そうだ。
チラッと目に入ったネイルの色、指。思い出した。

「もしかして!タクシーの?」

「はい!あの時は有難うございました。それから…、酔っていたとは言え間違えて、その……だ、抱き着いてしまってすみませんでした」

膝に着きそうなくらい勢いよく深々と頭を下げられた。

「そんな…大丈夫だから。頭、下げないで?あれから大丈夫だったかな?帰る迄、具合悪く成らなかった?」

「はい、何とか、無事帰りました。…帰った途端、大丈夫じゃなくなりましたから…。本当に有難うございました。先に譲って頂いて、恥ずかしい思いをせずにすみました」

「女の子だからね。気をつけないと。
体の事もだけど、世の中、悪い男も居るから。
女性だけの深酒は気をつけた方がいいね」

「はい!」

う〜ん素敵。やっぱり素敵ー。
ドンッ。
通行人が当たった。

「キャッ」

「危ないっ。……ごめん、車道側に立たせたままだったね。気をつけておくべきだった」

「……いいえ、…有難うございました」

「クスクス」

「あの…」

「いや、ごめん。君は余程…、俺と抱き合う縁があるんだなと思ってね。ま、今のは俺が抱き寄せたんだけど」
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