好きも嫌いも冷静に
お前が俺に?

・俺に話?


朝まで一緒に居た日以来、すっかり大家さんと顔を合わせなくなっていた。
気にしているのだろう。当然そうだ。

朝、玄関先を通ると、相変わらず美味しそうな朝ご飯の匂いはしているから、元気にしているんだとは思った。
もう、夜、怖くないのか、心配は心配だけど…。昼間だって安全な訳じゃないし。
あんなに怖がっていたのに…遠慮して我慢しているんだろうか…。
天涯孤独だって言ってたな。
何かあった時、…連絡される先がないって事…だよな…。
頼る人が居ない、そんな孤独の中…生きてるんだ。寂しさも恐さにプラスされるんじゃないか?…。
俺は…、男だとか女だとかが気になって、極力、部屋には入らないようにしようと、今までだってそう考えていた。
間違いが起きてはいけないから。…噂が立っても。
あの日は何もなく、…じゃないか…。
俺はキスしてしまったし…抱きしめてしまった。衝動で…。
俺の事、好きだと思ってくれてる人をだ。
結局、中途半端なことをして、変に聖人ぶって…そのせいで掻き乱してしまったんじゃないのか、大家さんの気持ち…。
部屋に二人だったんだ。
俺の事が男として怖くなったりしたかも知れない…。当たり前だけど、力にしたって圧倒的に男の方が強い。
顔見知りで、好意を持ってくれていても、男と女なんだよな…。
だから男と女なのか…。
大丈夫だろうか…。
気まずくても、声、掛けてみた方が良くないだろうか…。
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