【空色の未来[海色の過去]】
響也side



族関係で下の奴等が揉めたみたいで
闘争が起こった…

まあ相手は俺たちに比べれば
全然弱っちい奴等だけどな

青龍が器の小さい奴等に喧嘩を吹っ掛けられたからってそれに乗るのは阿呆のすることだ。

もう一回青龍に気合いいれさせねえと
駄目になるな…


族関係で忙しすぎて美緒に全く会えてねえ

メールはやり取りしてるが、
そんなんじゃ足りるわけがねえ

凄えあいつに会いたくて仕方がない…


俺は明日、美緒と一緒に花火を観に行くことにした。

別に祭りは嫌いじゃねえけど、
人が多すぎるところは滅茶苦茶嫌いだ

だけど、あいつが珍しく乗り気だったから連れてって行きたくなった…。


俺って本当、あいつには甘いよな…


早く会いてえ…



「なーに、不機嫌に顔をしかめたり、
珍しく優しい顔をしたり、百面相してんですか?」

朔弥が総長部屋の隅で俺を見てきて
何か巧みのある笑みを向けてきた。

「…別に…ただあいつに早く会いてえなって思ってよ…」



「フッ…あの女性にぞっこんですね…
……何をあの女性に感じるんですか?」


探るように美緒を突き放すように言ってくれんのは、朔弥の優しさでもあった

俺よりも…青龍を家族のように思ってるのは確かだ…

だから…どうしても、まだなんもわかんねえ美緒のことは受け容れ難いんだろ…


「あいつは…俺たち以上に強烈すぎる
過去を持ってんだよ…だけどな…
それを人に見せつけて手を伸ばしては
来ないんだ…何でだかわかるか…?」

朔弥は困ったように悩んだ顔をして
考えてる素振りを見せた…

「自分は護られるに値しないから
痛くても、辛くても…それを時の
流れのように全てを受け入れている。
何をしても…何も変えられないから…

ただの俺の妄想ですけどね……。」


朔弥はふざけて言ったんじゃない…

本当に考えて、自分の経験からその答えが出てきたようだった。


まあ…お前にはそう捕らえるしかなかったよな。
これまでの経験からすれば仕方のねえ状況だ。



「…あいつが…人に助けを求めねえのは、それだけじゃねえと思う…」

朔弥は静かに俺の話に耳を傾けた

「俺は、まだ…あいつの事を全部は
知らねえし、これから知っていけんのかも分かんねえ…だけどな…
俺が見てきたこの数日間のあいつは…
無意識だが…確かに誰かに助けを求めたんだよ…」

朔弥の顔つきが変わった…
その瞳には困惑の色は消え、
青龍の奴等と仲間の増援するときの鋭い瞳を宿した。

「…日頃のあいつは無表情を
装っているが、本当は感情の
激しいやつなんじゃねえかと思う…。
涼介の件で、そう感じた…。」


あの時のあいつは、涼介を救い出せるなら何でもしてやるって顔しやがった…。

それはまるで…本当の母親のように…

最初は幹部の連中も俺も、青龍にすり寄る為の偽善なんじゃないかって感じる他なかった。

だけど、あいつは姫にはなったがすり寄るどころか俺達に全く関心をわかねえ。




涼介の時は本当にただ純粋に
救ってやってたんだ…ってわかった。



あいつは優しすぎんだよ…


どこまでも優しすぎて
自分を傷つけてでもまわりの自分の闇に呑み込まれそうな他の連中を救ってやりたいって思ってるはずだ…。

もし、そうなら…あいつは…
自分のせいで人が傷つくよりも
自分が人から離れて一人で闇と
戦って行く方を選ぶんじゃねえのかな

誰も悲しまないように…

傷つかないように…




「俺は…そんなあいつの綺麗すぎる
心がさ、悲鳴あげてんのに…
放って置くなんて出来ねえって
思ったんだよ…」


俺が見てきたあいつは三種類…

冷徹な無表情、

恐怖に怯えた悲痛な表情、

そして…


純粋に笑った顔。



あの時の
あいつの笑顔が本当のあいつの表情
だと俺は思ってる…

あいつの笑顔が一生咲き誇れるようにしてやりたい…。



「本当に…べた惚れなんですね…。」

カッ//

「…うっせえ」

「その初恋が…実を結ぶと良いですね」

胡散臭い表情で俺に笑いかけて来る
朔弥に思いっきり睨んでやった

「まあ、逃がさねえよ…あいつを…」

朔弥が苦笑した…

「まあ、良いですよ…
少しはあの女性を見直してみますか…
でも、そんなに独占欲強かったら逃げられますから、気をつけて下さいね」

朔弥は一言そう言うと総長部屋を出ていった。



分かってるよ…

俺も初めてなんだよ…
こんなに独占欲丸出しになるほど、
一人の女を好きになるなんてな…







花火大会当日…


俺は族同士の喧嘩で時間がかかり、
美緒との待ち合わせ時間をとっくに過ぎていた。


あいつ…帰ってねえよな…


俺はこの日を密かに楽しみにしていた。

あいつとプライベートで会えるのは
何時も青龍の溜まり場だったから
人が大勢いるとあの無表情を絶対に外さないでいる…

だから、
今日一緒に出掛けてあいつの素顔を
見るのが楽しみだった。


会場に着くと美緒は今まさに帰ろうとしていた。

俺は見失わないように全速力で
傍まで走っていき、腕を掴んだ…


遅くなって、悪かった…


美緒は俺に勢いよく振り替えって
俺に抱きついてきた


美緒の瞳に涙が浮かぶと
本当に遅れてきたことを後悔した…

こいつは、本当は寂しがりやなんだ

例え2、30分だとしても…こいつにとっては不安で仕方なかったんだろうな


本当に…悪かった…


美緒が泣き止むまで
俺は壊れ物を扱うように抱き締めた。


美緒が泣き止むと…改めて
俺は美緒の格好に目を向けた

水色の生地に白と黄色の花の模様の浴衣
茶色の髪は頭の上で結われて
綺麗なうなじが色っぽくさせた…
それに、いつもは全くしない化粧を
こいつはナチュラルにやっていて
他の女みたいにケバくはなく、
逆に引き立てている…

……。


やべえ…こいつを誰にも見せたくねえ…

こいつの横を通っていく男は皆
彼女がいるにも関わらず
美緒に目を釘付けになっていた…

美緒を見た男を一人ずつ
目を潰してやろうかな…

俺は誰にも見せないように
美緒を抱き締めた。


すると腕の中のこいつは
少し身をくねらせて
上目遣いで見上げてきた


可愛い…じゃねえの…!


取り合えず時間があるので
美緒と一緒に屋台を巡ることにした…



手は自然と俺が繋ごうとしたが、
美緒からも手を伸ばしてきて
また無償に嬉しくなった…。



わたあめを買って…
甘いの苦手だけど美緒の食べてる姿が
無償に可愛くて…からかいながら
一口盗み食いした。

すると美緒は楽しそうに
俺に小突きながら
「嫌なら食うな!!」
って普段つけていた仮面を外して
年相応の笑顔を見せてくれた

もうそれだけで俺も嬉しくなった…




次はスーパーボールすくいをした。


だが、なかなか美緒は下手くそで
すぐ破れやすい網をずっと水中に
浸けていたから、ボールを掬い上げる時
簡単に破けてしまった。

どうやらあの青い色したボールが
欲しいみたいだ。

まぁ聞いたところで
欲しくないって言ってたけど
ずっと目で追っている…

だから俺が代わりに取ってやった。

すると、
案の定凄く喜んでくれた。

なんか、こいつが大事そうに持ってると
地味な色してるスーパーボールも
綺麗な宝石に見えた…

人間の目って不思議だよな…


少しまた歩くと、
美緒の下駄の紐が切れた

凄えショックだったみたいで
美緒は黙っちまった

最初は下駄が駄目になったことが
嫌だったのかもなって思ってたんだが
それは違ったみたいだ…


“俺と一緒に屋台を廻れなくなった”


それで落ち込んでたんだって…

普通に…こいつの事可愛いって思えた

神社で下駄を見てやったけど
直りそうも無かった…だがそれより

美緒の足は窮屈な紐に締め付けられて
綺麗に縄目がついてた…

ぜってえ痛えだろ…
なのに、ずっと我慢させてた

悪いな…気づいてやれなくて

絆創膏が無かったので
俺は自分のハンカチを足に巻いてやった

巻き終えると自分も美緒の隣に座って
屋台が並んだ通りを眺めることにした…

案外綺麗なもんだな…


まさか俺が女に尽くしてやったり
こうやって大切にしたり
綺麗だなんて思えるようになるなんてな





すると一瞬で目の前の鮮やかな景色は
暗く見えなくなった…



ヒュー…ドーンッ…

ドドーン…ドドーン…


花火が始まった…


「わぁー、綺麗…」

隣では美緒が花火の盛大さに
歓声をあげていた…


純粋に綺麗だと感じれる…

お前の方こそ、綺麗だよ…


俺はあの事を言いたくなった。
まだ青龍の幹部の彼奴等にさえ
言ったことがない、あの事…



花火を観る美緒の横顔を盗み見しがら
俺はその、花火よりも綺麗に咲き誇る
本当の笑顔を見つめた…







< 29 / 35 >

この作品をシェア

pagetop