オフィス・ラブ #∞【SS集】

こいつ、面白い。



「企画のミソはさ、何をやるかより、誰とやるかだと思うんだよな」

「要するにディレクションだろ、よくわかるよ」



部の中で一番若手だった新庄は、席が列の端にあり、そこに追加する形で堤の席がつくられたため、ふたりは隣同士となった。

軽い仕切りはあるものの、会話のしやすい環境で、口を動かしているほうが頭も回転する堤は、邪魔を承知で新庄に話しかけた。

クソ真面目に見えて、実はあしらいの非常にうまい新庄は、邪魔な時は相応に流し、相手をする時はとことんつきあってくれる。

こいつ、弟か妹がいるな、と直感した。



「ソフトウェア制作でも、似たようなこと、あるのか?」

「ソフトのプランナーなんて、それこそディレクション三昧だよ」



プランナーというのは、どうにも別業界の人間に説明のしづらい職業で。

シナリオライターと言うと理解してもらいやすいので、たまにそう言って手間をはぶくけれど、そんなものでは終わらない。


実用ソフトだろうがゲームだろうが、ユーザーの目に見えているもので、絵と音以外の部分は、すべてプランナーの担当だ。


どんなソフトやサービスにするかを考えるのは当然のこと。


カーソルが当たれば、文字が出る。

そのテキストは、プランナーが書いている。


動かせば、絵と音が出る。

どんな絵と音を、どういうタイミングで差しこむかは、プランナーが設定している。


ボタンをどこに配置し、ウインドウはどこに置き、横何文字の縦何行で、といったすべての事柄はプランナーが決めている。

つくったもののモニターもデバッグも、全部だ。


あまりに大小すべてにかかわりすぎて、どこから説明したらいいのかわからないのがプランナーの仕事なのだと。

最初の会社を出て、初めて知った。

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