オフィス・ラブ #∞【SS集】

朝、大学へ行くため部屋を出たら、スーツ姿の貴志と玄関で行きあった。



「面接?」

「そう。そのままバイト行くから、夕飯はいらない」



就活も佳境のこの時期に、のんきにバイトを続けている奴が、あるだろうか。


大学に合格してすぐに自動車免許を取った彼は、入学後にガソリンスタンドでバイトを始めて、たいして待遇もよくなさそうなそれを、なぜか満足げにずっと続けている。

あれで接客なんか務まるのかと不思議だけれど、続いてるんだから、務まっているんだろう。


元来、どうでもいいと決めたらこれっぽっちも興味を示さないくせに、一度ハマるととことん凝るところのある貴志は。

いつどこで誰に影響を受けたのか知らないけれど、気がついた時には立派な車バカになっていた。


免許だって、別に受験が終わるのを待っていたわけではなく、3月生まれだからそれまで取れなかっただけで、そうじゃなかったら18歳になり次第さっさと取って、親に借金してでも車を手に入れていただろう。


大学に入ってからは、ちゃんと自分のお金で中古の車を買い、それももう2台目になっている。

いじっては乗り、乗ってはいじり、ダートラだ、サーキットだと暇を見つけては出かけていく。



「そんなに好きなら、自動車関係の会社に就職すれば」



そう言ってみたことがあるんだけど。



「少し離れてるくらいのほうが、夢があるだろ」



そんな、夢なんて言葉があの男の口から出たのに、びっくりした。

< 15 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop