オフィス・ラブ #∞【SS集】
朝、大学へ行くため部屋を出たら、スーツ姿の貴志と玄関で行きあった。
「面接?」
「そう。そのままバイト行くから、夕飯はいらない」
就活も佳境のこの時期に、のんきにバイトを続けている奴が、あるだろうか。
大学に合格してすぐに自動車免許を取った彼は、入学後にガソリンスタンドでバイトを始めて、たいして待遇もよくなさそうなそれを、なぜか満足げにずっと続けている。
あれで接客なんか務まるのかと不思議だけれど、続いてるんだから、務まっているんだろう。
元来、どうでもいいと決めたらこれっぽっちも興味を示さないくせに、一度ハマるととことん凝るところのある貴志は。
いつどこで誰に影響を受けたのか知らないけれど、気がついた時には立派な車バカになっていた。
免許だって、別に受験が終わるのを待っていたわけではなく、3月生まれだからそれまで取れなかっただけで、そうじゃなかったら18歳になり次第さっさと取って、親に借金してでも車を手に入れていただろう。
大学に入ってからは、ちゃんと自分のお金で中古の車を買い、それももう2台目になっている。
いじっては乗り、乗ってはいじり、ダートラだ、サーキットだと暇を見つけては出かけていく。
「そんなに好きなら、自動車関係の会社に就職すれば」
そう言ってみたことがあるんだけど。
「少し離れてるくらいのほうが、夢があるだろ」
そんな、夢なんて言葉があの男の口から出たのに、びっくりした。