オフィス・ラブ #∞【SS集】
一時の強大な力こそ失ったものの、貴志の会社は、今でも業界最大のシェアを誇っていて。

2年営業を務めた後に、宣伝部署に異動になった私は、結局また同じ業界の住人となってしまった。


大学卒業と同時に同居は解消し、お互い会社の寮に入った。

食生活が心配で、たまに面倒を見にいくのだけれど、不思議なことに、その部屋には女の気配がまったくない。



「もういい」



理由を訊いたら、そう答えた。

たぶん、自分の私的な空間に女を入れることに、飽きたんだろう。


けど、とっかえひっかえの習性は直っていないらしく、その後も、私が知るだけで数人、相手がいる。


その中でも、ちゃんと実家に連れていったのが、ひとりだけいた。

その女性とは、一年近く一緒に暮らしてもいた。


美人で、家庭的で、そこそこ知的で仕事も持っているし、申し分のない結婚相手ではあったけれど。

そつのない印象に反して芯が弱そうで、私はいまひとつ気に入らなかった。


その人とも、何があったのか、ある時突然ひとり暮らしに戻ったという話を聞き。

私はまた、食事の世話をしに、たまに訪れることになったんだけど。



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