オフィス・ラブ #∞【SS集】
仲直りのしるしにと、煙草が離れた隙に、唇にキスを落とす。

新庄さんも、いい加減くたびれていたのか、すぐに柔らかく返してくれた。


痕をつけてしまった肩にも、キスをする。

ようやく汗の引いた肌は、表面だけが冷たい。


新庄さんは煙草を消すと、私を抱きかかえるようにして、身体の下に入れた。

見あげた鎖骨にも痕を見つけて、キスをする。


新庄さんが、私の頭を抱いて、ゆっくりとけだるいキスをくれた。

ようやく訪れた、穏やかな時間に安堵して、私もその首に手を回す。

それを深読みしたのか、新庄さんが、ふいに念を押すように言った。



「言っとくけど、もう無理だからな」



私だって無理だ。

そんな、人のことを際限なしみたいに言わないでほしい。


わかってます、と言い返そうとした時、間断なく鳴り響いていたエキゾーストノートが、ふと消えた。

同時にPCを見る。



「ピットインか」

「みたいですね…」



このレースでは、複数のチームでピットを共有するため、ピット内のにぎわいぶりは、なかなか見ごたえがある。

数瞬、それに見入っていたら、まずい、と新庄さんが身体を起こした。

枕にかけてあったバスタオルを腰に巻くと、シャワー借りるぞ、と言って慌ただしくバスルームへ向かう。


ははあ。

この後のピットアウトから、チームに4名いるドライバーたちの、それぞれ最終スティントが始まる。

それを見逃したくないんだろう。


私は、脱ぎ散らかした服をざっと身につけると、バスルームに行って、水音のするガラスドアをノックした。



「夕食作りますけど、何がいいですか」



考えているのか、答えがなく、しばらく水音だけがする。

やがて、いったん水音がとまり。



作ったことないのなら、なんでも。



そう不機嫌でもない声が、応じた。



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