オフィス・ラブ #∞【SS集】
「そうしている間に、亡くなったんです。今日が月命日で」
「事故、ですか」
ドライバーとして、他人事とは思えないんだろう、硬い声で新庄さんが訊く。
けど、いえ、と女性はほがらかに答えた。
「元から呼吸器を患っていまして。待っている間に発作を起こして、そのまま」
けど、私も一緒にいたので、ずっとそばにいてあげられたんですよ、と微笑む。
私たちは言葉もなく、うなずくだけだった。
「主人も、病院にいる間に、車で到着したんです。ふと気が変わって、電車で帰るのをやめたと言って」
じゃあ、ふたりで看取ることができたんだ。
すごい奇跡だ。
「それが驚いたことに、主人の乗るはずだった電車が、脱線事故を起こしたことを後で知って」
「えっ」
「さいわい、けが人だけで済んだ事故だったんですけれど、ちょっと、偶然とは思えないでしょう?」
思えるわけがない。
新庄さんと目を見かわす。
なんだか、何もかもが不思議すぎて、狐につままれたような気分だった。
「あの子、何か言ってました?」
申し訳ないような気持ちで、何も、と答えると、少し残念そうに、顔を曇らせる。
でも、と新庄さんを見て、少しおかしそうに、微笑んだ。
「あなたになついたのは、わかります」
こちらが答える前に、聞いたことのある排気音が駐車場にすべりこんできた。