奏で桜
彼女を探していた時、勿論のこと、
〝最悪の状況〟を想定して、
その対処の仕方も考えながら
行動をしていた。



しかし、彼女を発見した時、
わけのわからない焦燥感とともに、
それらの考えも全て吹き飛び、
ほぼ反射的に彼女のことを
叩いていたのだ。


気づいた時には既に遅く、
彼女は両の紅き眼で僕のことを
敵視するように睨みつけ、
〝また〟あらゆる限りの不満をぶつけてきた。



…前回と違うのはそれが、
より深く、より酷に、
なっていたというところだろう。







〝貴方も結局、お母様とすることは
変わらないのね。〟





生姜湯の水面にはこの言葉が
わずかに浮かび上がるかの
ように投影される。



それをじっと見ながら、
僕はふっと自嘲するように笑った。
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