奏で桜
「ううん!こちらこそありがとう!
私、本当に久しぶりに外に出たの!
…やっぱり凄いわねぇ、外って!
人がたくさんいて!
お店がたくさんあって!
楽園っていうものがあるなら
きっとここのことを
言うんじゃないかしら?」


「ふふっ、もう。大袈裟だよ、
ティアナちゃん。こんなの
日本に住んでたんだから
何度も見たことあるでしょう?」


彼女はくすくす笑いながら言う。
しかし、私の言っていることは
別に大袈裟でもなんでもない。
生まれてこのかた屋敷を出るまで、
屋敷以外の人間を本当に見たことが
なかったからだ。
だから私の気持ちは風船が
弾んでいるかのように浮き続けていた。



「久しぶりの外だもの。今日は
好きなもの頼んでいいからね?
私が全部奢ってあげるわ。」


そう言って彼女は微笑む。
その時ばかりは
私には彼女の微笑みがまるで
女神様のそれのように
神々しく見えた。
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